現代医学

病気編 性病
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●梅毒  ●淋病  ●軟性下疳  ●第四性病  ●エイズ  ●その他のSTD
〈コラム〉エイズについての正しい知識
〈コラム〉性病の予防

●性病とSTD
 性病予防法で決められている性病は、梅毒、淋病(りんびょう)、軟性下疳(なんせいげかん)、第四性病{鼠径リンパ肉芽種(そけいリンパにくげしゅ)}の4つです。この法律ができたのは昭和22年のことですが、それ以後、これらの性病以外に、性交渉によってうつる病気がいくつも発見されました。このため、従来の性病も含めて、現在では総称して性行為感染症(STD)と呼んでいます。
 従来の性病は、ペニシリンや抗生物質など効果の大きい薬が相次いで登場したため、近年著しく減少しました。ところが一方で、新しい性病はふえてきています。その大きな理由として、若い人たちの性が開放的になったことがあげられますが、問題はそこに性病の知識が不足していることです。
 性病が疑われたら、いいかげんな判断をせずに早めに専門医にかかることが大切です。淋病の場合、男性は泌尿器科、女性は婦人科で診察を受けます。その他の性病は皮膚科です。

●梅毒
原因 トリポネーマ・パリズム(スピロヘータ・パリダ)という微生物によって起こる病気で、慢性の経過をたどります。性交のほか、くちびるや乳房、手指などへの接触によって感染します。
症状 皮膚や粘膜の小さな傷口から入ったトリポネーマ・パリズムはそこで増殖し、そばにあるリンパ節に入り込んで全身に広がっていきます。体にあらわれる症状は経過にしたがって4期に区分されます。
●第1期梅毒 感染してから3か月までをいいます。潜伏期間は人によって幅がありますが、ほぼ3週間後に病原体の入り込んだ傷口に硬結(こうけつ:しこり)ができます。この硬結は、男性は亀頭(きとう)、女性は腟(ちつ)や子宮口に多くあらわれます。1個のことが多く、くずれて潰瘍{かいよう:硬性下疳(こうせいげかん)}になりますが、痛みはありません。それとともに太もものつけ根のリンパ節が大きく腫(は)れます。この腫れにも痛みはなく、無痛性横痃(むつうせいおうげん:よこね)と呼ばれます。2〜3週間すると症状が軽くなって第2潜伏期に入ります。
 この段階ではまだ病気になったことに気づかないことが多いのですが、すでに危険な感染源となっています。
●第2期梅毒 感染して3か月から3年までをいいます。
 9週間くらいたつと、主に胴まわりにうすい赤い斑点{はんてん:梅毒性バラ疹(ばいどくせいバラしん)}ができますが、2〜3週間後には自然に消えてしまいます。しばらくすると、今度は顔や体に銅紅色の丘疹{きゅうしん:皮膚から盛り上がった発疹(ほっしん)}が環状にあらわれてきます。特に肛門(こうもん)周囲や陰部では丘疹がこすれてただれます。また、くちびるや舌などの粘膜には乳白色の粘膜斑があらわれます。
 このほか、この時期には食欲不振、不眠、頭痛、倦怠感(けんたいかん)などの症状も出てきます。髪が全体に抜け落ちることもあります。
●第3期梅毒 感染して3年以上たったものをいいます。
 この時期には皮下組織がおかされてできる結節性梅毒と、さらに深部がおかされたゴム腫性梅毒(ゴムしゅせいばいどく)の2タイプの硬結があらわれてきます。結節性梅毒は顔や手足、体部に出やすく、ゴム腫性梅毒は顔や頭部、鎖骨、胸骨、脛骨(けいこつ)によくできます。ゴム腫はその名の示すように弾力のある硬結です。
 2つのタイプの硬結は、どちらもやがてくずれて潰瘍(かいよう)となり、あとを残しながら一方向に次々とあらわれてきます。
●第4期梅毒 感染して10年たったものをいいます。
 発疹はなくなりますが、内臓に病変が及んでさまざまな症状が起きてきます。脳がおかされると進行性まひ{まひ性痴呆(まひせいちほう)}になります。また脊髄(せきずい)がおかされると知覚障害、歩行障害を起こします{脊髄癆(せきずいろう)}。病変は心臓血管系にも及んで、動脈障害や大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)があらわれてきます。
妊娠と梅毒 妊婦が梅毒に感染している場合は、胎児にも影響が及びます。このような梅毒には次の種類があります。
●妊婦梅毒 妊娠と梅毒の感染が同時に起こった場合です。胎盤の形成が始まる妊娠12週目ころから梅毒の影響があらわれやすく、流産あるいは死産となります。
●先天梅毒 妊娠中の母親が梅毒に感染した場合は、たいてい流産や死産になります。
 また妊娠前にすでに梅毒に感染している場合は、しばしば早産になります。臨月に出産しても、多くは出生時の子供に梅毒の症状があらわれています。口の周囲に放射状の瘢痕(はんこん)があらわれ、手のひらや足の裏にはただれや水ぶくれがみられます。体には丘疹ができ、化膿(かのう)していることもあります。手足のまひもみられます。
●晩発性先天梅毒 先天梅毒の子供で、出生時には梅毒の症状があらわれず、成長してからあらわれてくるものです。
 7歳ごろから思春期にかけてゴム腫のようなものができ、第3期梅毒と同様の症状を示します。また前歯がビール樽状の歯並びになり(ハッチンソン症候)、目の角膜は白く濁ります。耳も聞こえなくなります。進行性まひや脊髄癆が起こることもあります。
検査と治療 硬性下疳(こうせいげかん)などの発疹からとった液の中から病原体が検出される、血液検査で血清の梅毒反応が陽性である、などを確認して梅毒と診断されます。血清の梅毒反応は感染してから4〜6週間で陽性になります。
 治療に広く用いられている薬はペニシリンで、梅毒にとても効き目があります。そのほかの抗生物質が使われることもあります。
 第1期梅毒の時期に治療すれば、完全に治ります。第3期以降になると完全に治るのは困難です。多くの場合、症状はよくなっても、血清が陰性化しません。
 梅毒に感染した妊婦は、早期に治療を始めれば、胎児に影響を及ぼさずにすみます。先天梅毒で生まれた子供も、生後1年以内に治療すれば完全に治ります。

●淋病(淋疾)
原因 淋菌の感染によって起こる病気です。保菌者や感染者との性交によって感染し、男性は尿道に、女性は子宮頸管(しきゅうけいかん)に病気が起きます。まれに淋病の人のうみのついている衣類や指から感染することもあります。患者自身の目の結膜への感染もみられます。また、抵抗力の弱い12〜13歳以下の女子が浴場で感染することもあります。
症状 男性の場合は、感染してから2〜7日の潜伏期が過ぎると病気があらわれてきます。尿道にかゆみがあり、朝起きたときに尿道から粘液性の分泌物が出ています。この分泌物がしだいに黄緑色のうみに変わるころ、尿道が排尿時に痛むようになり、尿道の出口が赤く腫れてきます。
 これをほうっておくと、症状はますます悪くなり、炎症も奥へ進んで前立腺(ぜんりつせん)や副睾丸(ふくこうがん)などをおかすようになります。尿の回数が頻繁(ひんぱん)になり、痛みも強まります。
 女性の場合は、感染すると子宮頸管炎になり、濃い黄色のおりものが出ます。この段階ではそのほかに症状はみられませんが、これをほうっておくと子宮内膜炎を起こし、下腹部痛や不正出血があらわれてきます。卵管炎、骨盤腹膜炎が起きて高い熱が出ることもあります。尿道炎や膀胱炎(ぼうこうえん)になることも少なくありません。
診断と治療 感染する機会があったか、淋病の症状があらわれているか、さらに病巣のうみに淋菌が存在するか、これらを確かめて淋病と診断されます。
 治療には、主としてペニシリンが用いられます。ペニシリンの注射や内服を4〜7日間続けると治ります。ただし、ペニシリンに抵抗力のある淋菌の場合は、ほかの抗生物質が使われます。
 治療中、病気が完全に治るまでは性交は厳禁です。また、過激な運動や、アルコール類・刺激物の飲食を避け、安静を保ちます。
 うみで汚れた下着は熱湯消毒し、十分乾燥させるようにします。高温や乾燥の状態にすれば淋菌は死んでしまいます。
 夫婦ともに淋病にかかった場合は、どちらか一方だけが治療を受けて治しても、再び感染することになります。ふたりが同時に治療を行わなければいけません。

●軟性下疳
 軟性下疳菌(なんせいげかんきん)が性交によって感染して起こる病気です。ここ20年間は非常に少なくなりました。
症状 潜伏期間の2〜3日を過ぎると、外陰部に紅色の丘疹(きゅうしん)があらわれます。丘疹は内側にうみをもっており、破れると痛みのある潰瘍(かいよう)となります。潰瘍はしだいに大きくなり、数もふえます。男性の場合は、亀頭の冠状溝(きとうのかんじょうこう)や包皮にできやすく、女性の場合は大陰唇(だいいんしん)、小陰唇、腟口(ちつこう)によくみられます。
 丘疹ができはじめてから2〜3週間目ごろに、太もものつけ根(鼠径部)のリンパ節が腫(は)れて大きくなるとともに皮膚も赤く腫れ、強い痛みがあらわれます。
治療 抗生物質やサルファ剤が効き目があります。服用のほか、潰瘍にはぬり薬も用いられます。

●第四性病(鼠径リンパ肉芽腫)
 クラミジア・トラコマチスという病原体が、性交によって感染して起こる病気です。昭和10年ごろ流行しましたが、最近はほとんどみられなくなりました。
症状 感染してから1〜2週間の潜伏期のあと、外陰部に小さい丘疹や水ぶくれがあらわれます。
 さらに1週間くらいたつと、太もものつけ根のリンパ節がいくつも腫れてきます。リンパ節は1つに固まって鶏卵くらいの大きさになります。高熱もみられます。やがてリンパ節が破れて分泌物が出はじめ、数か月治りません。女性は慢性陰門潰瘍や直腸狭窄(ちょくちょうきょうさく)を起こします。
治療 テトラサイクリン系抗生物質がよく効きます。

●エイズ
 エイズ(AIDS)は、「後天性免疫不全症候群」を意味する英語を略した言葉です。その名のとおり免疫システムに異常が起こり、すべての病原体に無力になるため、さまざまな症状が起きてきます。
 1981年、アメリカのニューヨークやカリフォルニアで、若い男性に起こる奇妙な病気として報告されて以来、同様の患者の報告がアメリカ各地から次々と提出されました。
 アメリカでは、同性愛の男性と麻薬常習者を中心として、猛烈な勢いで広がり、1981年前半には発病数14人でしたが、その後、半年ごとに倍増の勢いで患者が発生し、1990年9月末までに、合計17万人に達しています。
 やがてエイズはアメリカと隣接するカナダ、メキシコヘ、そしてヨーロッパヘと伝わっていき、ついに世界中に広がって、さらに増加の傾向がみられます。日本でも290人(1990年8月末現在)のエイズ患者が報告されています。日本のエイズ患者の増加率は5年前のアメリカと同じであり、安心できません。
原因 エイズウイルスの感染によって起こります。血液や精液、あるいは粘膜が直接触れ合って感染します。性的な接触のほか、輸血や臓器移植がそのきっかけとなります。ただし、エイズウイルスに感染してもすぐに発病するとは限りません。しかしその場合、無症状のキャリアー(感染者)として感染源になる危険があります。
症状 ●熱が出たり、自然にひいたりをくり返す、●ひどい寝汗をかく、●体がだるく元気がない、●首や後頭部やわきの下などのリンパ節が腫れる、などが初期症状としてあらわれます。しばらくすると●下痢や便秘、●せきやたんなどののどの異常、●出血症状{鼻血、出血斑、血尿、下血}などの症状が出て、しだいにやせてきます。
 さらに病気が進むと免疫が低下し、ふだんはかからないような弱い病原体におかされるようになります{日和見感染(ひよりみかんせん)}。感染する病気は風土に影響されますが、多くみられるのはカリニ肺炎(呼吸困難を起こす)とカンジダ性食道炎(食べ物がのどを通らない)です。このような症状が出てから1年以内に、半数以上が死亡します。
治療 残念ながらエイズのための決定的な治療法はありません。今のところ免疫力を回復させる薬の使用と、二次的に感染した病気の治療が行われています。
 抗エイズウイルス薬としてAZTその他の逆転写酵素阻害剤、ウイルス固有のプロテアーゼ阻害剤などが開発され、それらの組合わせで治療効果の向上が著しく、患者の「生活の質」(Quality of Life)は急速に改善しつつあります。


その他のSTD(性行為感染症)
病名 原因と症状 治療
非淋菌性性器・尿道感染症 非淋菌性性器・尿道感染症の半分くらいがクラミジア性器・尿道感染症で、これはクラミジア・トラコマチスという微生物によって起こる。男性は尿道から漿液性(しょうえきせい)のうみがみられ、女性はあまり症状が出ない。 テトラサイクリン系の抗生物質が効果がある。
陰部へルペス 単純性疱疹(たんじゅんせいほうしん)とも呼ばれ、ウイルスによって起こる。症状としては外陰部に赤い水ぶくれができて不快感があり、ときにはひどく痛むこともある。女性の場合、排尿しにくくなることもある。 症状が重い場合は抗ウイルス剤を使用。再発型へルペスはほうっておいても自然に治る。
尖形コンジローム(せんけいコンジローム) 外陰部にできるいぼで、ウイルスが病原体。多くは性交によって感染する。男性は陰茎、陰嚢(いんのう)、尿道口にできやすく、女性は陰唇や腟口のまわりによくみられる。いぼが大きい場合は痛みやかゆみがある。 陰部の清潔が第一。凍結療法や電気凝固術でいぼを除去することも行われる。
腟トリコモナス症 腟トリコモナスという原虫がふえたために腟に炎症が起こる病気。おりものがふえて、熱い感じや排尿時に痛みがある。性交によって男性の泌尿器にも感染する。 治療は化学療法剤によって行われる。夫婦がそろって治療を受ける必要がある。
陰部伝染性軟属腫 子供によくみられる俗にいう水いぼが、成人の外陰部にあらわれたもの。病原体はウイルスで、性交によって相手に感染する。いぼの中に乳白色のやわらかい粥状物(じゅくじょうぶつ)があって、ここに多数のウイルスが存在している。 いぼをピンセットでつぶして殺菌消毒する。このときいぼの中の粥状物をまわりにつけないように注意してとり除く。
腟カンジダ症 健康な人も常にもっているカンジダ属の菌によって起こる病気。菌が異常にふえたり、何らかの原因で免疫力が低下した場合にこの病気があらわれる。腟にかゆみがあり、おりものがみられる。 陰部を清潔にし、できるだけ乾燥した状態を保つようにしたうえで、外用薬を用いる。
その他 STDの病原体は細菌、ウイルス、原虫、外寄生虫といろいろある。病原体が侵入する場所および繁殖する場所は、尿道、子宮頸管、腟、直腸、咽喉(いんこう)など皮膚と粘膜の境目によくみられる。性行為によって相手に感染していく病原体のなかには、赤痢アメーバ、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスなども含まれている。
また現在多いとされているSTDには、ほかに毛ジラミ症と疥癬症(かいせんしょう)がある。毛ジラミ症は陰毛などにすみつく毛ジラミによって起こり、ひどいかゆみがある。疥癬症はヒゼンダニが原因で、外陰部やわきの下に丘疹があらわれ、やはりかゆみがひどい。
いずれの場合も清潔が第一で、乾燥した状態を保つようにする。医師の診断をきちんと受け、早めに適切な治療を行う。

●ミイラにも淋病(りんびょう)  淋病は古くからある性病で、古代エジプトのミイラに淋病があったことが知られている。

●梅毒の日本侵入 日本に初めて梅毒患者があらわれたのは1512年のこと。当時行き来のあった明(みん)からもたらされたという。