基礎知識編 PART1 漢方療法入門
漢方では食べ物も薬になる

薬膳専門のレストランでは、生薬を使っておいしく食べる工夫がされている。また、その人の症状に合ったメニューも用意してもらえる
(「シンフウ」にて)

医食は同源と考える
 「医食同源」といわれるように、健康と食べ物とは非常に深い関係があります。いま話題の薬膳料理(やくぜんりょうり)も、食べることで健康を保ち、治療の手助けをすることが目的です。
 その考え方の根本は、日常の食べ物にも薬効があり、また食べ物によって、体の「寒」と「熱」のバランスを保つことにあります。
 寒・涼と温・熱、すなわち四気は漢方でも非常に重要視される考えで、処方にも深く関係します。

体の状態を寒証、熱証に分ける
 冷えて寒けがする、顔色は青白いかどす黒い、尿が近く、うすい尿で下痢しやすい状態が寒証です。反対に、熱があり、顔色は赤いか黄色で手足は温かい、尿は黄色く便秘ぎみという状態が熱証です。
 『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に「寒を治すには熱薬を用い、熱を治すには寒薬を用いる」とあります。つまり、体が寒証の人には温・熱の薬品や食べ物を、熱証の人には寒・涼の薬品や食べ物を選択するのです。

四気のバランスをとる
 寒・涼の食べ物は、体を冷やし、鎮静・消炎の作用があり、高血圧に効果があります。
 温・熱の食べ物は、体を温め、興奮させる作用があり、貧血の人や冷え症によいものです。薬膳では、人それぞれの証(しょう)に合わせて食べ物や料理法を選びます。
 また季節に合わせて、暑い夏には寒・涼性の食べ物を、寒い冬には温・熱性の食べ物を選択してバランスをとります。そのほか四気のどれにも属さない「平」の食べ物もあります。
 ただし、これらの性質は調理法によって変化します。


温・熱の食べ物
[1]ニラ(温)
血液循環の促進、食欲増進、強精、冷え症、貧血、胃腸病、便秘、神経痛、月経痛、夏ばてなどによい。多食しないこと。
[2]ネギ(温)
根の白い部分に発汗作用があり、かぜの特効薬になる。また、せきを鎮(しず)め、動脈硬化の予防、消化の促進など。便秘にもよい。
[3]玉ネギ(温)
コレステロール値を下げ、強壮、食欲不振、不眠に有効。皮の煎じ汁(せんじじる)は、高血圧症や動脈硬化の予防になる。食中毒にも効く。
[4]ニンニク(温)
疲労回復、冷え症、強壮、動脈硬化症、血圧降下、殺菌作用、かぜ、百日ぜき、細菌性下痢、尿の出が悪いときに。眼病には不適。
[5]ショウガ(温)
発汗・解熱作用があり、かぜの治療に。胃痛、腹痛、冷えによる下痢・嘔吐(おうと)の止まらないもの、せき止め、月経不順に効く。
[6]シソの葉(温)
発汗作用があり、かぜの予防・治療、魚やカニの中毒、精神安定、去たん、せき止め、整腸、貧血、食欲不振などに。実も同様。
[7]カボチャ(温)
せきを鎮め、便秘、虫下しによい。また老人の気管支炎によい。利尿作用、解熱作用がある。胃腸を丈夫にし、体力をつける。
[8]ニンジン(温)
ビタミンA、カロチンが豊富なため、夜盲症、眼精疲労、目の乾燥、荒れ肌の改善によい。高血圧症、胃腸虚弱にもよい。
[9]玄米(温)
ビタミンB群など重要な栄養素を含む胚芽(はいが)がある。血液の浄化や血行促進作用がある。消化が悪いので、胃弱の人は要注意。
[10]もち米(温)
体を温めて発汗させたり、疲労回復の作用や、下痢を止める効果がある。炎症性の疾患のある人の食事には適さない。
[11]鶏肉(温)
気を養い、消化機能を助ける。利尿効果もあり、催乳作用や産後や病後の体力補強、おりものなどによい。下痢にもよい。
[12]牛肉(温)
消化機能を助け、胃腸を補強するほか、骨の強化や、むくみをとる作用があり、糖尿病などにもよい。レバーは目によい。
[13]マグロ(温)
良質のたんぱく質を含み、脂肪にはコレステロール値を下げ、脳血栓(のうけっせん)を予防するEPAが多く含まれている。老化防止にも。
[14]イワシ(温)
不飽和脂肪酸が多く、動脈硬化や脳血栓が予防できる。骨の強化や強壮、肝機能の強化、貧血予防にもよい。
[15]アジ(温)
血液の凝固を防ぎ脳血栓の予防になる。カルシウム、ビタミンの補給によい。アレルギー体質の人はショウガやシソと食べること。
[16]エビ(温)
足腰の冷える人、精力減退で早漏(そうろう)ぎみの人によい。急性じんま疹(じんましん)などに対し発疹(ほっしん)をうながす作用がある。老化防止の効果も。
[17]みそ(温)
昔から腹部の病気によいとされ、毒消し、整腸、膵臓(すいぞう)や肝臓の強化に有効。ニコチンなどの毒素をとり除く作用もある。
[18]酢(温)
魚や肉の鮮度を保ち、毒を消す。みずむし、むくみ、肥満、心臓病、疲労、イライラ、急性の化膿性疾患(かのうせいしっかん)、食欲不振に効果が。
[19]栗(温)
倦怠感(けんたいかん)、足腰虚弱、下痢、止血、強精、食欲回復のほか、血液を巡らす効果も。欧米では強壮、百日ぜきのせき止めとして用いる。
[20]クルミ(温)
強精作用、頻尿(ひんにょう)、尿路結石、去たん、せき止め、便秘、健忘症、不眠のほか、腰を強くし、美肌をつくり、老化防止に効果が。
[21]アンズ(温)
肺を潤し、体の水分のバランスをよくする。たんを切り、せきを止める作用がある。種子{杏仁(きょうにん)}は、せき止め、便秘によい。
[22]サクランボ
(温)

消化をよくし、気力を増し、湿気や風で起こる関節炎、神経痛をやわらげる。病後の回復によい。肌を潤す作用もある。
[23]桃(微温)
消化促進、便秘、尿の出の悪いときに有効。葉は湿疹(しっしん)などに。種子{桃仁(とうにん)}は、便通、古血除去、月経不順などによい。
[24]コショウ(熱)
胃腸を温め、気の逆上を鎮(しず)める作用がある。解熱、筋肉のこり、古血を下す働きがある。せきやたんにも効く。
[25]唐辛子(熱)
体を温める作用が強い。胃腸の冷えを温め、除湿作用、食欲増進作用のほか、しもやけにもよい。痔(じ)の人には不適。

寒・涼の食べ物
[1]白菜(寒)
よく煮て食べると消化がよく、体の余分な熱をとり、口のかわきを止める。去たん、利尿、便秘解消などの作用がある。
[2]ゴボウ(寒)
便秘、強壮・強精、血液の解毒、利尿、便通、脳卒中、貧血、肥満防止、がんの予防など。種子は、漢方の解熱・解毒剤。
[3]トマト(寒)
疲労回復、食欲増進、弱った胃腸の回復などのほか、高血圧症には特によい。また眼底出血の予防、貧血、肌荒れ、便秘症にも。
[4]ホウレン草(寒)
貧血、便秘、高血圧、痔、肺結核、糖尿病の口渇、体力強化、美容、夜盲症、顔面紅潮、めまいによい。二日酔いにも効く。
[5]ナス(寒)
消炎、解毒、下痢、口内炎、内痔出血によい。尿の出にくいとき、黄疸(おうだん)、肝炎にも効く。せきの出るときは不可。
[6]キュウリ(寒)
利尿、高血圧症、むくみ、微熱を下げる、熱性下痢、むくみなどに。民間療法では、やけどやあせもなどによいとされる。
[7]コンニャク(寒)
便通をよくし、毒物を排出する。そのほか、去たん、肥満防止、糖尿病の改善、美容、膀胱結石(ぼうこうけっせき)、利尿などに効果がある。
[8]トウガン(寒)
肥満解消にすぐれた効果がある。また利尿効果があるのでむくみによい。熱をさます作用もあり、暑気あたりに効く。
[9]ソバ(寒)
毛細血管を丈夫にし、動脈硬化や高血圧症の予防によい。整腸、健胃、利尿、解毒、便秘などにもよい。冷え症の人には不向き。
[10]ノリ(寒)
甲状腺腫(こうじょうせんしゅ)、嘔吐(おうと)や痔、胸苦しさ、手の甲の腫れ(はれ:外用)によい。ノリやワカメ、昆布などの海藻類は、血圧降下の作用がある。
[11]アサリ(寒)
血圧を下げ、のどのかわきを止める作用がある。利尿作用にすぐれ、黄疸(おうだん)、むくみ、糖尿病にもよい。精神安定作用もある。
[12]シジミ(寒)
肝機能を高め、アルコールの毒をとるので二日酔いによい。利尿作用もあり、寝汗をかく人に効く。目を健康にする働きも。
[13]カキ(寒)
鉄分、ヨードを多く含み、貧血、虚弱体質のほか、不眠、精神不安によい。飲酒後の酒毒を消し、のどのかわきをとる。
[14]柿(寒)
酒の酔いをさます。消炎、しゃっくり、げっぷ止め、痔(じ)などによいが、食べすぎると便秘に。柿の葉茶は利尿効果がある。
[15]塩(寒)
のどや歯の痛み、急性結膜炎、歯槽膿漏症(しそうのうろうしょう)によい。天然塩を選ぶ。便秘には塩水を。腎臓病、高血圧症、ぜんそくの人は控える。
[16]タケノコ
(微寒)

繊維質が多く、便秘に効果がある。はしか、じんま疹(じんましん)などで発疹(ほっしん)が出きらない場合にもよい。アレルギー体質の人は不可。
[17]小麦(微寒)
ノイローゼ、更年期障害、不眠症、下痢、汗をかきやすい人、口がよくかわく人に効く。そのほか、尿の出の悪い人にもよい。
[18]ハトムギ
(微寒)

肌を美しくする効果があり、しみ、肌荒れによい。いぼとり、心臓病、腎臓病、かっけによるむくみ、糖尿病にもよい。
[19]セロリ(涼)
血液の浄化作用が強く、便秘、補血、強壮・強精、整腸、血圧降下、鎮静、不眠、健胃、利尿に有効。高血圧症の人は常食に。
[20]金針菜
(きんしんさい:涼)

貧血、夜盲症、下血、尿道炎、血尿、不眠症、痔(じ)出血、乳腺炎(にゅうせんえん)、黄疸(おうだん)によい。神経の安定作用もある。体内の水分をとり除く。
[21]動物性油脂
(涼)

牛脂(ヘット)や豚脂(ラード)は、虚弱な体質を補い、便の出をよくする。また、せきを鎮(しず)める。あかぎれ(外用)もよい。
[22]しょうゆ(涼)
外用として、虫刺されによい。熱をさまし、胸苦しさをとり除き、生食品の解毒作用がある。塩分に注意。
[23]スイカ(涼)
利尿作用があるので、急・慢性腎炎でむくみのある人に効く。そのほか、高血圧症、熱性のぜんそく、糖尿病、肝臓疾患によい。

平の食べ物
[1]トウモロコシ
(平)

整腸、便秘、消化不良などに。実の毛は利尿効果があり、急性腎炎や妊娠時のむくみとりに、煎じ薬(せんじやく)として使用される。
[2]大根(煮ると平)
消化作用、健胃、利尿、解熱などによい。せきを止め、たんを出やすくさせる作用もある。生の状態では寒の性質なので注意。
[3]ユリ根(平)
神経衰弱、ストレス、不眠症、気管支炎、肺結核、喀血(かっけつ)に効く。せき止め、ぜんそくの発作をやわらげる作用がある。
[4]ジャガ芋(平)
けいれんの発作を鎮(しず)める作用があるので、胃・十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)の痛みによい。慢性便秘にも効果がある。湿疹には湿布する。
[5]里芋(平)
肝臓の解毒作用や消化促進、便通をよくする働きがある。たんやせきの出る人や化膿症(かのうしょう)の人は治りにくくなるので注意。
[6]山芋(平)
滋養強壮、虚弱体質の改善、疲労回復のほか、糖尿病、頻尿(ひんにょう)、おりもの、むくみ、整腸、下痢止め、消化促進にもよい。
[7]レンコン(平)
生のレンコンは古血をとり、煮たものは胃腸、心臓によい。ハスの節には強い止血作用があるので胃・十二指腸潰瘍(い・じゅうにしちょうかいよう)によい。
[8]キャベツ(平)
胃壁の粘膜の再生や治癒(ちゆ)に効果があるので、胃・十二指腸潰瘍によい。糖尿病、便秘、吹きでもの、泌尿器系疾患にも効く。
[9]ソラ豆(平)
血便、吐血、喀血(かっけつ)、鼻血などの止血に効果がある。胃腸を丈夫にして気力をつけるほか、血圧を下げる。利尿作用もある。
[10]シイタケ(平)
血中のコレステロール値を低下させ、動脈硬化や肥満・糖尿病・がんの予防、肝臓の強化にもよい。体の弱い人に効果。
[11]キクラゲ(平)
主な効用は、血液の浄化。動脈硬化症、高血圧症、痔(じ)、婦人科系疾患に効く。便秘、結核、潰瘍、乾燥した肌にも効果がある。
[12]ゴマ(平)
滋養強壮、体力回復、白髪・脱毛防止などの老化予防をはじめ、慢性胃腸病、高血圧症、貧血、動脈硬化症、便秘などによい。
[13]アズキ(平)
利尿、むくみの解消作用があり、腎臓病(じんぞうびょう)、心臓病に効く。そのほか消炎、解熱、抗菌など。ダイエット効果もある。
[14]大豆(平)
疲れやすく、寝汗をかく人、リウマチ、関節炎、月経不順、耳鳴りのする人によい。利尿作用もあり、むくみに効く。
[15]豚肉(平)
レバーは貧血、胃袋は下痢、頻尿、皮は糖尿病、ハツはどうき、息切れ、マメは腎機能の衰えなど、すべて薬効が。生食は不可。
[16]鶏卵(平)
卵黄は、体力をつけ、目を潤す作用があるが、アレルギー体質の人は要注意。殻は、粉末にして胃・十二指腸潰瘍の痛み止めに。
[17]サンマ(平)
精力をつけ、夏ばての予防・解消に効く。脳血栓(のうけっせん)を予防する作用もある。アレルギー体質の人は食べすぎないように。
[18]梅(平)
抗菌力があり、整腸作用が強いので、慢性の下痢、細菌性の下痢、食欲不振、食べ物や薬物による中毒に効果がある。
[19]干し柿(平)
せき、消炎、血圧降下、痔、便秘、かぜなどによい。柿の葉は高血圧症によい。ヘたを煎(せん)じて飲むと、しゃっくりに効く。
[20]ビワ(平)
気管支炎や胸部感染症によるせき、のどのかわき、糖尿病によい。葉は暑気あたりや腸炎に、種は肝臓病、むくみ、せきによい。
[21]リンゴ(平)
食物繊維を多量に含み、整腸作用によって便秘や下痢、口のかわきに効く。せきを止め、酒の酔いをさます作用もある。

●旬(しゅん)を食べる  体は季節や天候に敏感に反応するので、なるべく旬のものを食べる。季節はずれのものは、特にアレルギーの人に悪い。

●ソバと薬味 ネギや唐辛子などの薬味は、単に味覚のためでなく、体を冷やすソバと体を温める薬味で寒熱のバランスをとっている。