がん・アレルギー特集 がん
[5] がんの漢方治療
がんは漢方で治せるか
 私が今までに取り扱った初期または末期のがん患者数十例の治療結果からいうと、治せるとも、治せないとも、はっきりといいきることができない。大部分は治らなかったのであるが、なかには治癒(ちゆ)したらしいと思われる例もないではない。その一例をあげてみよう。

膀胱がん(ぼうこうがん)を抑えた治療例
 患者は70歳の男子、初診は昭和28年であった。この患者は、体調の異変を訴えて大学病院で受診し、膀胱がんの診断を受けた。手術をすすめられたが、切りたくないというので、漢方薬を調合してもらい服用したところ、頻尿(ひんにょう)、血尿の症状がおさまって服用を中止した。しばらくしてこれらの症状が再発し、再び手術をすすめられた。この患者はどうしても手術を受けるのはいやだという。そこで、紹介によって私の医院を訪れたのである。
 来院したとき、患者は血色が悪く、尿の白濁(はくだく)、排尿後の膀胱部の不快感があった。そのほか、口のかわき、下腹部の緊張感、胸苦しい、汗が出やすい、頭重などの症状があった。舌には乾燥した白黄苔(はくおうたい)があり、両腹直筋がやや緊張し、へその左右斜め下に軽い抵抗があった。恥骨結合の真上あたりも、押すと軽い不快感があった。
 そこで猪苓湯(ちょれいとう)に桃核承気湯(とうかくじょうきとう)合方{芒硝(ぼうしょう)・大黄(だいおう)各0.5g}を投ずることとし、1週間分を与えた。1週間後には諸症状がやや好転しつつあるようすであったが、2週間服薬後に来院したときは、わずかながら血色がよくなってきた。患者の語るところによると、服薬10日目ごろにドロドロした変なものが尿とともに多量に出たという。3週間後には、血尿もまったく消失し、ときに乳のような白濁尿が出ることはあるが、1日ごとによくなっていくのがわかるという。
 このころから目立って血色もよくなり、太ってきて、付き添いなしで来院するようになった。さらに服用を続け、2か月半後には、再び勤務につけるようになった。

確実に認められる延命効果
 また私の恩師奥田謙蔵先生は、T大産婦人科で手術不可能と宣告された子宮がん患者を、柴胡剤(さいこざい)と抵当丸(ていとうがん)の併用で治療し、同婦人科で再診を受けて、完治を確認されたという例をもっておられる。
 このほか、これに類した報告はほかにもいくつかある。
 たとえば、杏林大学医学部第2外科の鍋谷欣市教授グループの研究では、がんの手術後、漢方を併用した群と併用しなかった群とでは、漢方投与者のほうが「体力の回復が著しく、副作用として生じることが多い肝障害や低たんぱく類の出現を抑え、貧血や白血球の減少を防止するのにも有効」という成績を報告している。
 また青森県の町立田子病院の横内正典氏は、胃がんの再発患者に、手術後、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を与えたところ、回復が早く、5年たっても再発・転移の兆候がなかった、という例や、がん性腹膜炎であと1か月の命といわれていた患者に、雲南白雲(うんなんはくうん)、霊芝(れいし)を肛門(こうもん)から投与し、半年の延命効果を得た例などを報告している。
 また『毎日ライフ』の平成2年11月号は、『「癌(がん)」を迎え撃つ』として、日本と中国におけるがんに対する漢方の効果や影響について報告している。
 日本大学生化学教室、東邦大学、信州大学、筑波大学、北里研究所、東京大学医科学研究所、漢方医院、国立がんセンターを含め、13の大学・研究所などの実験・症例によれば、十全大補湯などの処方で、免疫力の向上、抗腫瘍(こうしゅよう)効果、抗がん薬の効果増大、延命効果などがあるのがわかる。
 以上のように、がんに対する漢方の寄与は、しだいにその濃密さを増しつつあるが、それでもまだ、確実性をもったものが確認された、という段階までには至っていないようである。(藤平 健)

●がんの漢方薬「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」とは 全身が衰弱し、気力、体力ともに衰え、貧血ぎみの人によく効く。手術不能の患者にもよい。